2012年09月06日

中に浮いた賠償責任

NNNドキュメント
闇に消えた安全〜検証 関越道バス事故〜


4月28日午後10時10分出発
大型連休前の金沢駅。
東京経由でディズニーランドへ向かう高速ツアーバスに乗客45人が乗り込んだ。
そして・・・
4月29日午前4時40分事故発生
金沢駅からおよそ500キロ離れた群馬県藤岡市の関越自動車道。
バスは道路脇の壁に激突し、乗客7人が死亡した。
運転していたのは法律で禁止している日雇い運転手の河野化山被告。
バスの運転手に聞いてみると
”日雇いは結構ある”
”末端は大変なんだよ”と口にする。
年間およそ600万人が利用する高速ツアーバス。
激しい価格競争はバス会社の体力を奪っていた。
”旅行会社との契約で穴をあけられない、断れない”
”「いくらでできますか?」と聞かれ、出した金額で弾かれると後がない”とバス会社の社長は語る。
国が推し進めてきた規制緩和の先に何があったのか。
遺族や被害者は今も・・・
いくつもの夢を奪った高速ツアーバス。
何故安全は置き去りにされたのか。
高校三年生の梁田(やなだ)力人さん(18歳)
後ろから三番目の席に座っていた。
”バスの中で寝ていたが、衝撃とともに起きて周りを見渡したら灰が舞っていた”
写真に残る血に染まったジーンズ。
下半身が全く動かなかったため、上半身だけでバスの中の非常口から這い出した。
背骨を折る重傷。
医者から、”立てる可能性は数パーセント”と言われた。
パイロットを目指して石川県の高校で寮生活を送っていた力人さん。
茨城の実家へ帰るため、インターネットで東京行き3,700円の格安チケットを購入した。
東日本大震災で被害に遭った両親を気遣ってのことだった。
しかし、高速道路の防音壁に突き刺さるように大破したバス。
乗客45人のうち7人が死亡、無傷の人は一人もいなかった。
ツアーを企画した旅行会社「ハーヴェストホールディングス」。
社長の大屋政士氏は会見でこう話した。
”普段外注していないバス会社に行かせたのが原因かと思う”
結局のところ、
運行はバス会社に任せていたので自分たちに問題はないという主張だ。
そのバス会社「陸援隊」の社長である針生裕美秀被告は
”河野運転手の居眠りが原因”だと訴えた。
石川県で開かれた被害者説明会。
そこでわかったのはずさんな実態の数々。
発注元のハーヴェスト社は陸援隊がバスを運転することを直前まで知らなかったのだ。
両者の間に2つの会社が介在し、仕事が次々と丸投げされていた。
大阪のハーヴェスト社がバスの手配を依頼したのは千葉の「成田中央交通サービス」。
千葉と石川間の往復を17万円で受注。
会社があるという場所に行ってみると、そこにあったのは親族が経営する別の会社だった。
連絡先を聞き、電話で話を聴く。
”正式な依頼が決まったのが3,4日前”
”緊急の場合は当日ということもある”
成田中央交通サービスは仲介を専門とする会社だった。
ハーヴェスト社とは4年ほど前から取り引きをするようになり、今回も直前になってバスの手配を依頼された。
その後、1万円の手数料を取り、16万円で「神洲観光」に仕事を回す。
千葉県北東部にある住所が示す場所へ行ってみると神洲観光はアパートの一室にあった。
そこに従業員の女性が戻ってきた。話を聞こうとするも
”社長はもう来ない”
神洲観光は5台のバスを所有。しかし大型連休ですべて出払ってしまったため、1万円の手数料を引いた15万円で
陸援隊に仕事を回していた。
最終的にバスの運行を請け負ったのは千葉・印西市にある「陸援隊」
1997年と1999年に営業免許を取らずに観光バスを運行。いわゆる白バス営業で2度摘発されていた。
ここ数年は中国人向けに観光バスを走らせていた。
針生被告は会見でこう話した。
”震災以降、売り上げも前年の3分の1になり、そこで労務管理も安全管理も全てがストップしてしまった・・・”
高速ツアーバスに参入したのは経営が悪化した去年からだった。
そもそも都市と都市をつなぐ長距離バスはJRバスなどが運行する定期路線しかなかった。
安全に乗降できる停留所があるのが特徴的だが、乗客がいなくとも運行しなくてはならない。
しかし、2000年、国はバス事業の自由競争を促すため、貸切バスの規制緩和を行った。
すると旅行会社が人数に合わせて客を募集し、バス会社に運行を委託する「高速ツアーバス」が生まれた。
その後、ネット販売と低価格を売りに一気に普及。バス会社が急増した。
ところが、規制緩和は同時に過当競争も生み出した。
”10の仕事に100の会社が群がって過当競争になっているのが現実”
とあるバス会社の社長は言う。
中にはコストを押さえるために違法と知りながら日雇いの運転手を使う業者も現れ始めた。
その日雇い運転手の一人が河野化山被告。
日当1万円で金沢からおよそ600キロを運転する予定だった。
事故の被害者は当時の被告の様子を見ていた。
”パーキングに寄った時に眠そうな感じでハンドルに寄りかかってうつ伏せになっていた”
そしてあの事故を引き起こした。
法律上、バスを安全に運行する責任は陸援隊にあり、乗客を募集したハーヴェスト社にはない。
なぜなら、旅行会社に適用されるのは旅行業法で道路運送法は適用されないためだ。
ツアーを企画、募集した旅行会社が客の安全の責任を持たない不可解な実態。
長野県でバス会社を営む男性。
5年前、取り返しの付かない事故を起こした。
2007年2月大阪・吹田市でスキーツアーバスが道路脇の支柱に激突、乗客25人が重軽傷を負った。
経営者の夫婦は運転手に十分な睡眠を与えず過労運転を命じたとして道路交通法違反の罪で有罪判決を受けた。
運転していたにのは経営者夫婦の長男。手伝いで乗り合わせていた三男(16歳)が死亡した。
事故を起こした会社は今も営業を続けている。
事故のあと会社に届いた匿名の手紙。
”お客様は荷物ではない”
”殺人企業”
批判の声は収まらず、数年間は仕事がなかった。
かつて20人以上いた運転手は今では5人。
月に3,4回バスツアーを企画するなど無理のない範囲で細々と続けている。
代表の下総美和子代表は
”一生忘れられない事故を起こしてしまっているので・・・”
事故が起きた背景には何があったのか
バスを走らせる前日、急遽大阪行きの増便を依頼された。
相手は最も取り引きの多い旅行会社。そして大阪まで回送させる予定だったバスに客を乗せることを決めた。
その結果、十分に休日を取っていなかった長男が運転、事故を引き起こした。
下総健司さん
”大量輸送、格安輸送にそれたのが自分たちの失敗だったのかもしれない”
当時旅行会社からはこんな依頼もあった。
名古屋発京都行きのバスツアー。
営業エリアの違う長野県のバス会社にとって法律上、違反になる仕事だ。
無理な依頼は運賃面にも現れていた。
貸切バスの公示運賃表。
バス会社はこの範囲で自社の運賃を設定し、国に届け出る必要がある。
しかし、旅行会社からの仕事はほとんどが下限額を割り込むという。
今回の事故でも陸援隊は公示運賃の下限額を6万円下回る15万円で受注していた。
取材に対し、ハーヴェスト社は
”公示運賃の設定で運賃を出すと他社との価格競争についていけない”
”大手旅行会社も含め公示運賃で手配しているところはまずない”
と答えた。
3年前、総務省が行った調査でも、9割以上が公示運賃を受け取れていないと回答。
その影響が人件費や整備費の抑制に繋がっていることが後の実地調査で判明した。
しかし、監督責任がある国土交通省はこの運賃の問題について重きを置いていなかった。
国土交通省安全政策課の谷本仁彦事故防止対策推進官に話を聞くと、
”全ての事業者に全ての項目で監査を行うには限界がある”
”監査の対象項目も多くある中で運賃違反を立証するには至らなかった”
旅行会社を管轄する観光庁。
観光庁観光産業課の北村洋二課長補佐に聞くと
”どういう取り引き実態なのか不明確で実態が分かりづらい”
”それが分からないと取り締まりがなかなかできない”
専門家は旅行会社が優位に立つ業界の構造に問題があると指摘する。
関西大学公共交通安全マネジメント学の安部誠治教授は
”公示運賃の範囲で決められた届出運賃をバス会社に渡すことが大事”
事故から一ヶ月後。
陸援隊の針生社長が初めて被害者の前で直接謝罪した。
ところがその翌日に道路交通法違反(名義貸し)で逮捕・起訴された。
代理人弁護士も突然辞任してしまった。
これを理由にハーヴェスト社は予定していた2回目の被害者説明会を中止。
遺族や被害者の怒りや悲しみは行き場を失っている。

パイロットを目指す梁田力人さん。
今も入院生活を続けている。
”目標はやはり早く学校に復帰すること”
付きっきりで看病を続けてきた母の知代子さん。
金沢での被害者説明会にも駆けつけたが納得のいく答えは返って来なかった。
ハーヴェスト社から一方的に送られてくる書類には
「事故の責任は陸援隊にある」と繰り返すばかり。
自分たちが申し込んだのはハーヴェスト社のバスツアーなのになぜ責任を問えないのか。
6月18日知代子さんは観光庁に向かった。
ハーヴェスト社が旅行業法に違反していたことが判明し、会社側の意見を聞く聴聞会が開かれたからだ。
問われていたのは陸援隊に営業エリア外の仕事を指示したことなど。
ハーヴェスト社は文書でこう弁明した。
”違反事実はない。あっても軽微な違反”
”もし処分されれば事業継続が困難になり被害者への補償にも影響する”
被害者への補償を盾にしたその言葉に知代子さんは悔しさがこみ上げた。
ところが聴聞会からわずか2週間、ハーヴェスト社は自ら事業を停止、破産に向けた手続きに入った。
すでに社員の姿もない。
ハーヴェスト社の代理人弁護士
その2日後、観光庁はすでに破産を決めたハーヴェスト社に47日間の業務停止処分を下した。
後手後手に回った国の対応。取り残された被害者たち。
知代子さんは言う。
”普通の市民が普通の行動の中で突然闇に叩き落されたような事故であるということを日本中の皆さんにもう一度考えて欲しい”
今回の事故は何を変えるのか。
国土交通省旅客課バス産業活性化対策室の谷口礼史室長は
”今回の事故には2つ要因があると思っている。1つは高速ツアーバスの委託側と受託側の問題。
もう1つは貸切バス事業者の安全性の問題”
”今後はしっかりとした制度設計をしたいと思っている”
当面の緊急対策として国土交通省は運転手が夜間に一人で運転できる距離を制限した。
1日670キロから400キロへ。
そして来年の夏までに旅行会社もバスの運行責任を負う制度に改正。
守られていない公示運賃の制度についても見直す方針だ。
安全管理を怠ったバス会社。責任を問われない旅行会社。
規制緩和が産んだひずみを国は放置し続けたのだ。
その犠牲になった7人の命。
山瀬直美さん。3人の子供の成長を楽しみにしていた。
岩上胡桃さん。看護師を夢見ていた17歳。
木沢正弘さん。妻と2人の子供が残された。
妻由香里さんの手記には
"今リビングのお父さんの席を見ると、彼はもういません。私にお父さんお母さんの一人二役なんてできるのだろうか。
絶対にこんなことはあってはならないと思う"
年間の利用者600万人。今この時も多くの高速ツアーバスが全国を駆け抜けている。

当時の事故映像はショッキングなものでした。
壁によってバスが真っ二つになっており、車体は人の入る隙間がないほど潰れていました。
高速バスを使ったツアーが数多くなった昨今ですが、
裏の事情を知ると、事故も起こるべくして起きたのだと納得しました。
かなり厳しい労働環境の中、居眠りしつつも必死で働く運転手。
それを野放しにしていたバス会社と旅行会社。
1度事故を起こしたら終わりなのはわかっているのに続けていくしかない。
この事故でも最大の被害者は消費者である一般人でした。
会社はあっという間に解体され、賠償の責任もうやむやに・・・
制度がちゃんと改正され、安全が確保されるまで高速バスに乗るのは避けたいと思います。

















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posted by ドキュメントまにあん at 12:22| Comment(1) | TrackBack(0) | NNNドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
安さで選ぶからこういう事になる。「高速バス」という言葉のあやに騙されやすい消費者。高速バスと高速ツアーバスの違いをしっかり見極めることが消費者に求められている。高速バスは道路運送法で定められいて路線許可も厳しい審査をクリアーしたバス事業者のみが運行できるから安全に安心して乗れる。事故の補償もしっかりとしている。高速ツアーバスとは旅行業者がツアー客を募集する形でバスは別の下請けの貸切りバス事業者に委託する。ツアー客が集まらなければ運行しない。バス乗り場だって何処にあるかわからない。どんなバスが来るかわからない実際来たらボロボロのバスだったりする。旅行業者と貸切りバス事業者と別々なので事故が起きた場合、まさに責任の擦り合いで下請けの貸切りバス事業者はトンズラする可能性もある。被害者は慰謝料どころか治療費すら払ってもらえない。訴訟を起こすか泣き寝入りするしかないのだ。今は安さを選んだ愚かな消費者のせいで一番安全な夜行列車が廃止に追い込まれた。JRも企業努力しないのも悪いが……被害者には言葉悪いが安さに引かれよく調べなかった消費者も悪い。
Posted by 復活ブルートレイン at 2015年05月17日 09:50
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