2012年06月18日

やり場のない怒り

NNNドキュメント'12
救いなき漂流 ユッケ集団食中毒と被害者


一皿280円の激安ユッケ
店の人気メニューが家族の団欒を引き裂いた。
被害者181人。このうち5人の命が失われた。
問われたのは生肉の安全性。
店や加工業者の衛生管理と行政の規制そのものの甘さが浮き彫りになった。
遺族の叫びに誰も答えないまま時間だけが過ぎていく。
富山県小矢部市に住む前田修一さん(仮名・49歳)
去年4月22日次男の誕生日祝いに家族で「焼肉酒家えびす」砺波(となみ)店へ行った。
ユッケを食べたのは前田さんと高校生の長男、中学生の次男だった。

異変は3日後に起きた。
エビが丸くなるような状態、体をくねらせる状態が続いたという。
寄せては返す激しい痛み。子供二人が市立砺波総合病院へ入院した。
中学生の次男は意識を失い、自発呼吸ができなくなった。
担当医から「脳死状態です」と宣告を受けた。
検出されたのは腸管出血性大腸菌。
これは人の体に入ると、毒素を出す。
腎臓の機能を破壊し脳症を引き起こすこともある。最悪の場合死に至る。
富山県を中心に発生した「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件。
富山、石川、福井、神奈川の6店舗で181人が被害を受け、5人の命が無くなった。
被害者が食べた共通の料理が「ユッケ」。
生の牛肉を刻んで作るこの料理は腸管出血性大腸菌O111とO157に汚染されたまま提供されたと見られている。

汚染を防ぐためには国が定めた肉の表面を削りとるトリミングを行う。
14年前、当時の厚生省が定めたガイドラインによって生肉を扱う業者の努力義務とされた。
しかし、えびすを経営するフーズ・フォーラスは
トリミングは業者でやってもらっている。
店舗ではやっていない。
と当時のマネージャー石野浩平マネージャーは語る。
一方、卸業者の大和屋商店は保健所に対して
トリミングは業者の加工の中には入っていない。
加熱用の肉を作っているので生肉用は作っていない。と答えた。
結局、店も卸業者もトリミングをしていなかったのだ。
えびすの肉は生食用ではないという疑惑に対し、フーズ・フォーラスの勘坂康弘社長(当時)は
蓄場からの生肉用の出荷実績はない。
私達は生肉用の肉を使用していなかった。
ただし、日本中の店で生食用の肉を使用しているところはデータ上1件もない。
勘坂康弘社長が明かした事実は消費者には信じがたいものだった。
厚生労働省の統計では国内で生食用として流通する牛肉はない。
消費者が口にしていたユッケやレバ刺しはもともと生食用ではなかったのだ。
警察は業務上過失致死傷の疑いでフーズ・フォーラスの捜査を開始。
被害が複数の店舗にまたがっていたことから、捜査は卸業者にも及んだ。
保健所の調査で、患者や、えびすの従業員から同じO111が検出されている。
しかし、患者が食べたユッケ用の肉は店舗には残っておらず、因果関係は立証されていない。

秋を迎えても前田さんの次男は病院のベッドで眠り続けていた。
ユッケを食べてからちょうど半年がったった10月、容態が急変した。
尋常ではないほどの出血があり、ベッドが真っ赤になった。
半年間意識がなかった次男は全身をばたつかせ、最後には涙を流し、息を引き取った。
その涙は「今まで見守ってくれてありがとう」と言っているように見えたと前田さんは言う。
国のガイドライン。
指導する立場の富山県は4人の死者を出したえびす砺波店の立ち入り検査を開店以来一度もしていなかった。
担当者が店を尋ねたのは2年間で4回。
しかし、訪問したのはいずれも午前中。店が開くのは午後からなので、人はおらず、検査は実施されなかった。
事件後に国が行った緊急調査では、ユッケなどを提供する業者の半数がガイドラインを守っていなかった。
その割り合いは富山県の業者では8割にものぼった。
富山県の生活衛生課では、法律等の根拠がないと
業者に対し「絶対にやってください」とは言えない。
国はなぜ強制力のある法律で規制しなかったのか。
厚生労働省はこれまで生食による重大な食中毒が発生していなかったので、強制力のない基準が適当だった。と話す。
国がユッケ等の生肉を法律で規制したのは去年10月。遅すぎる対応だった。
食中毒の発生から半年が過ぎても被害者には支援も説明もないままだった。

そんな中、被害者同士で連絡を取りたいという男性が現れた。
これをきっかけに北日本放送はニュース番組を通じ、被害者に対し繰り返しメッセージを送った。
そして被害者からメールが届く。
本人の了解もと、被害者同士の連絡先が伝えられた。
今まで声を上げられなかったのは周囲に明かせなかったからだ。
被害者の一人の女性は2ヶ月間集中治療室に入り、首筋には治療の後が残っている。
事件が風化していくなか、被害者たちは自ら立ち上がるしかなかった。
事件後、えびすを経営していたフーズ・フォーラスは解散し、その後債務の状況が明らかになった。
負債額は17億8000万円。
そのうち6億9000万円を被害者への賠償にあてるという。
試算はわずか1億2000万円。
このままでは保証は絶望的だ。
鉄工所で働く砺波市の男性(49歳)。
去年4月、家族でえびすを訪れ、ユッケを食べた。
妻や子供が次々と入院し、意識不明。高校生の長女と中学生の長男は集中治療室で生死の境をさまよった。
子供二人は一命を取りとめたが、妻と義理の母親は帰らぬ人となった。
妻に任せっきりだった家事は今ほとんど、父親である男性がやっている。
病院からは治療費として1400万円を請求された。
その後、高額医療制度の適用で減額されたが、貯金を切り崩して生活している状態だ。
賑やかな家族の時間はもう取り戻せない。

富山県高岡市で住職を務める男性(39歳)。
まさか自分の息子にお経をあげるとは思ってもいなかった。
息子は6歳。小学生になったばかりだった。
食べたユッケはわずか2口。
小さな骨壷に収まってしまった息子をこの半年間、毎晩抱いて寝ていた。
ようやく気持ちも落ち着き、納骨することができた。
新しい墓には「倶会一処(くえいっしょ)」の文字が。
「また会いましょう」という意味だ。

3月31日。
この日、フーズ・フォーラスは被害者向けの説明会を開いた。
説明会は勘坂康弘社長が精神的にダメージを受けているという理由で非公開で行われた。
会場に入り、頭を下げる勘坂社長。
用意した文章を読み上げた後はうつむき、被害者の質問には弁護士が答えるだけだった。
前田さんは思いをぶつけた。
勘坂社長はこの後自己破産を申請した。
これにより、フーズ・フォーラスの負債は1億円ほど圧縮される見込みだ。
それでも十分な保証は行われないであろう。
2000年に起きた雪印乳業集団食中毒事件で被害者側の弁護士を務めた石川直基弁護士。
落ち度のない被害者が何も保証されない状況というのは明らかにおかしい。と語る。
石川弁護士は、食品を製造、販売をする業者に保険加入を義務付け、食中毒などが起きた時に補償するという
食中毒の補償制度を提案している。
しかし、消費者庁は「新たな保証制度の検討はしていない」と答える。

秋には数人だった被害者グループは16家族に増え、前田さんを中心に被害者の会を発足した。
4月上旬、前田さんは東京都内の法律事務所を訪れた。
国や県の判断がおかしいという共通の意見を持つことができた。
一方、警察の捜査も難航していた。
前田さんは食中毒の被害者が長い間補償されない現状を何とかしたいと考えている。
4月29日。
住職の男性は亡くなった息子の1周忌でお経を上げていた。
法要には被害者の会も駆けつけた。

なぜこの子は死んだのか。
なぜ誰も責任を取らないのか。
なぜ何も教えてくれないのか。
なぜ・・・

被害者たちは今も岸辺のない海を漂流し続けている。


生肉を食べる習慣というのはもともと大阪の鶴橋が発祥で、
韓国から鶴橋に来た人々が焼肉屋を始め、そこで生肉料理を提供してきたということらしいです。

食中毒の原因の代表としてよく名前を聞くサルモネラ菌や、O157。
特にO157の症状は重篤な被害をもたらすと言われています。
アメリカのファーストフード業界でもまず第一に注意が払われているのはこのO157です。
番組で取り上げられていた被害者の症状はすさまじいものでした。
ほんの何口かのユッケを食べただけなのに・・・
そして、一番驚く事実は生食用の牛肉がどこにも存在していないということ。
消費者には何も知らされず、ずっと販売、消費されてきたことに恐怖を感じます。
これまで目立った食中毒がなかったのが不思議です。
いや、もしかしたら事件は起きていたのかもしれないが、全て闇に葬られていたのかもしれないですね。
今回のこれだけ大きな事件すら補償もされぬまま風化を待つような状態ですから。
いつも悲しい思いをし、涙を流すのは被害者です。
被害者の立場に立った法や制度の整備が待たれます。



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posted by ドキュメントまにあん at 10:57| Comment(0) | TrackBack(0) | NNNドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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